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みどりの東北元気キャンプ2012について(10)恐怖を乗り越える方法に共通するメカニズム

 

写真は、F3ドライバーで世界を転戦する井原慶子さんの写真です。

以前、車を運転中にラジオかテレビのトーク番組で聞いた彼女の話が、ひどく印象に残りました。

(運転中でしたので、音声しか聞いていませんので・・・ラジオかテレビか、番組名なども分かりません)

 

大クラッシュ(衝突事故)を起こしたときのエピソードでした。ヘリコプターで搬送されるほどの事故で、運転席の直前までフロントは吹き飛び、後方数百メート ルにエンジン部分が転がり、タイヤは数百メートル先まで飛んでいたのだそうです。背中に傷を負い、5センチほど膨れ上がっていたのだそうです。

予選での事故だったそうで、翌日も走行があったのですが、彼女はスタッフに頼み込んで出場したのだそうです。スタッフは、彼女の背中の傷が動かないように、運転席部分を5センチ後方に沈み込ませ、車を調整したのだそうです。

当然ですが、時速数百キロで加速、減速、そして80㌔で急カーブを曲がる運転です。遠心力でG(重力加速度)がかかるときには、通常でも息はできないほどなのだそうで、事故の翌日の走行の激痛は半端なものではなかったと言います。

なぜ、それほどまでして、事故の翌日に走行しようとしたのかと言えば、事故の恐怖を克服するためだと言うのです。

 

それがレーシングドライバーの常識なのか、彼女が経験で知っていたことなのか分からないのですが、クラッシュの恐怖は、早めに車に乗り、事故と同じような状況を無事に走ることでしか取れないのだそうです。傷の痛みよりも、恐怖を超えることの方が重要だったのだそうです。スピードを恐がったら、レースができなくなるからです。

 

そこで、痛みに耐えながら、事故を起こしたポイントを、事故のときよりも1キロ速い速度で通過できたときに、自分にOKを出して、車を降りたのだそうです。

恐怖を超えていく心理療法には、いろいろありますが、基本は、恐く感じた辛かった体験を思い出しながら、その恐さを味わいます。しかし、実際には、その恐さは、今、目の前にはないものですので、今を意識しながら、その恐さの変化を感じとります。いずれ、その恐さは減少していきます。

そして、この恐さが抜けた時に感じる安心感は、実は生物としては無上の喜びになります。これが、恐さを克服するために必要なことで、心理療法に共通するメカニズムになります。

 

心理療法には、さまざまな方法があります。

 

たとえば、その恐さを感じた辛かった体験をどのように語り、どのように定義づけているのかに着眼して、その体験への意味づけを変えていく方法があります。どれほど嫌で、辛い体験でも、自分の人生に意味のある体験、意義のある体験だと思えるようになれば、そのことを思い出すことで感じる圧倒的な恐さに悩まされないですむようになります。レーサーの井原さんは、自分にOKを出したとき、彼女は、恐らく、この事故を、「事故にあっても、私はレーサーとしてやっていける」と定義づけたのだろうと思います。

 

また、井原さんの場合と同様に、その体験を思い出しながら、ひたすら、その恐さが消えていくまで、その恐怖の記憶のイメージから逃れないで、恐さと向き合うという方法もあります。この場合、大事なのは、今はその事故の瞬間ではないと理解をしながら、そこから別の場面や別の活動に気を逸らせないことになります。 もちろん、実際に井原さんと同じように、まったく同じ場面や状況に自分を持って行き、それを超えていく方法もありますが、カウンセラーがその場面に同行は 普通はできません。通常、過去の辛かった体験をイメージ映像として思い出してもらうのですが、その状況で恐怖が消えるまで、そこに留まるのです。

このとき、安心・安全の感覚を自分で作り出せる手法を事前にマスターさせた上で、この場面で、その方法を試みさせ、恐怖が消えていくのを促進する方法もあります。

 

一方で、上記を総合的に行う方法もあります。小林は、主に、両者を総合的に組み合わせる方法を使います。

 

お子さんの場合は、プレイセラピーなどがよく行われます。そこでは、しっかりとした安全・安心感が確保されると、お子さんは、自分の感じた恐くて嫌だった体験を遊びの中で、それを表現してくれるようになります。子どもの不安や恐怖をしっかりと受け止めながら、恐かった体験をイメージの世界で共有していきます。「恐く感じても良い」という姿勢を堅持していると、お子さんは、その恐さをスリルに転換していくようになります。そのことが、恐さを超えていくことを手伝うことになります。

 

恐さを超えていくメカニズムの本質ををシンプルに示していただいたF3レーサーの井原さんに感謝しております。

2012年1月のドバイ24時間で13位という好成績、ルマン24時間は残念でしたが、まだまだ現役レーサーです。

 

みどりの東北元気キャンプ2012について(9)辛い体験を超えるために必要な課題

「みどりの東北元気キャンプ」で、子どもたちが取り組む課題は多種多様に用意しました。細かい手続きは後述しますが、子ども自らが課題を選択させ、課題に挑戦し、それを乗り越える体験となることを目指しています

たとえば、2011年の夏のキャンプでの課題は、「シャワークライミング:水に逆らって進む」「カヌー・カヤック体験:目的地まで到達する」「ツ リークライミング:高さ20mまで登る」「ツリーハウス:家を作る」「ビストロin小野川湖:与えられた食材で、全員の夕食を作る」などでした。

これらの課題は、いずれも、地震、津波、避難所生活体験をどこかで思い出させるものでもあります。

シャワークライミングでは水に逆らい、カヌーでは危険回避のための訓練で転覆を体験しなければなりません。津波体験のある子どもには厳しい課題でしょう。写真は、自分たちで、カヌーを作りあげ、湖に漕ぎ出す企画です。カヌーが沈みそうなところを必死で漕いでいます。

 

家に戻れない子どもが家を建築するツリーハウス作りもあります。避難所で限られた食べ物を分け合っていた体験のある子どもたちが、料理を自分たちで話し合いながら自由に作る「ビストロ」の企画もあります。

災害や災害にまつわる避難生活の体験は、「私は無力だ」「私は役に立たない」「私はダメだ」などの否定的な自己イメージ(NC;negative cognition)を、多くの子どもに植え付け続けたことでしょう。

これにあらがうような活動を用意し、自らの力で何らかの成果を得るように支援するのです。その結果、「私は力がある」「私は役に立っている」「私は私でよい」などの肯定的な自己イメージ(PC;positive cognition)が強められることを期待したのです。

これは、災害などの辛い体験で作られた否定的な自己のイメージとは真逆のものが得られるように課題を仕組むわけで、支援者には相当の工夫と努力が必要になるのです。

 

 

みどりの東北元気キャンプ2012について(8)心のケアキャンプを支える理論2「グラウンディング法」「呼吸法」

この記事は、以前、早川惠子先生が記事化したものです。キャンプの際の心理教育では、次の順番で進んでいきます。

★グラウンディング法⇒呼吸法⇒バタフライハグ「安全な場所」「RDI」⇒動作法(とけあい動作法)

 

◆緊張したときや嫌なことがあったときは、どのように乗り越えていますか?

我慢しすぎることはありませんか?

 

ドキドキ、イライラしている時には、実は、知らず知らずのうちに息が浅くなっているのです。緊張したときや嫌なことがあったときなどにリラックスする呼吸法を行ってみましょう。

 

①から⑥までは、姿勢を整える方法です。

呼吸法では、息を吸って、一旦止めます。そのあとゆっくり吐きます。

これは、酸素がゆっくりゆっくり体中の細胞を巡ってゆき、代謝や循環をよくするのをお手伝いするためです。

代謝や循環が関係している自律神経は自動的にコントロールされているといわれていますが、呼吸は自分でコントロールすることができるのです。

 

ここでは7秒で息を吸って、3秒止め、10秒で吐ききるようにしていますが、ご自分のペースで行うようにしましょう。どこかで苦しくなるようでしたら、苦しくないように進めてください。心地よく、気持ちよく行うようにしましょう。

 

呼吸法を行った直後は、血圧が高い人は血圧が一瞬下がることや、心拍数が下がることがあります。心と身体は繋がっているので、呼吸法は心にも身体にも優しいリラクゼーションといえるでしょう。

呼吸法がスムーズに行えなくても、普段の生活で、ほんの少し呼吸を意識してみてください。浅く息をしていることに気が付いたら、深くゆっくり呼吸をしてみましょう。普段の息遣いに少し気持ちを向けるだけでも、イライラや緊張が緩み、心が安定してきます。

 

1.      姿勢を整える(グラウンディング法) 

 

①    少し足を開いて、足裏をぴったり全部つけたまま両足の親指に少し力を入れてください。肩の力は抜きましょう。

①    それでは、足裏はぴったりつけたまま体を前に倒してください。

②    次に倒れないように、足裏はぴったりつけたまま体を後ろに倒してください。

③    一度真ん中に体を戻したら、次は左に体を倒してください。

④    もう一度真ん中に体を戻したら、そのまま右に体を倒してください。

⑤    もう一度真ん中に体を戻したら、体を前に倒してください。

⑥    それでは、最後に体を真ん中に戻します。肩の力が抜け、つむじから背骨まで、気持ちよく、まっすぐに伸びている感じです。

 

写真は、キャンプでグラウンディングを行っているところです。自分の重心を探しています。

 

2 呼吸法

 

⑦    それでは、そのままの姿勢でゆっくりとストローでしゃぼん玉を吹くように口から息を吐いて、今、肺の中に入っている空気を全部出してください。

⑧    全部息を吐き切ったら、おなかの力を抜くと、自然に空気が鼻から入ってきます。そのままゆっくり7秒息を吸います。

⑨    すったら3秒息をとめます。

⑩    もう一度ゆっくり、ストローでしゃぼん玉を吹くように口から息を吐いて、10秒ぐらいで肺の中に入っている空気を全部出してください。

⑪    全部息を吐き切ったら自然に空気が鼻から入ってくるので、そのままゆっくり7秒間で吸います。

⑫    すったら3秒息をとめます。

⑬    ゆっくり、ストローでしゃぼん玉を吹くように口から息を吐いて、10秒で、肺の中に入っている空気を全部出してください。

⑭    2回繰り返したら、体と心は今どんな感じですか?静かに感じてみてください。

 

以下の写真は、春キャンプの説明会で保護者に呼吸法を教示する早川先生。

息を吐く動作で手を下に向けて「ゆっくーり・・・口から・・・ふーっと吐いていきます」と言っています。

 

みどりの東北元気キャンプ2012について(7)心のケアキャンプを支える理論1「動作法(とけあい技法)」

◆心のケアに必要な3つの要素◆

 

本キャンプを組み立てるのにあたって、次の3つの構成要素を意識しました。

第一に「安全、安心を確保する」こと 第二に、「子どもが被災体験で悪化した自己概念を想定し、それに抗するような肯定的な自己概念を強める体験を準備する」こと、そして、第三に、「その体験を先々の日常生活の中に繋いでいく」ことでした。

 

PTSD(post- traumatic stress disorder:心的外傷後ストレス障がい)は、死ぬのではないかというような恐くて辛い体験に出会った後で、周りの刺激とは無関係に恐さや不安に苛ま れることや、感情の不安定さや、記憶が寸断されているような感じになることです。

 

お子さんの場合では、いわゆる「キレる」などの怒りや攻撃性を示す場合や、「成績が低下する」「ぼーっとしたことが増える」「何かを非常に嫌がる」「周囲の状況とは脈絡のない動きをする」「夜驚などの睡眠の問題」などに表れてきます。

 

◆安心を与える動作法(とけあい技法)◆

 

キャンプに参加した全てのお子さんがPTSDの問題を抱えているわけではありません。ですが、今回の災害で辛い体験を味わったことは確かです。また、日常の中で、他の地域のお子さんよりも、生活上のストレスを抱えているのも確かです。ストレスで生じる不安や緊張に抗するもの、それが「安全・安心」の感覚なのです

 

心理療法では、さまざまな治療方法が開発されていますが、どの流派でも、「安心」を与えることが共通しています。不安や緊張に抗することのできる安心を与えることが基本だと思います。

第一の安全、安心を確保するために、キャンプでは、キャンプに参加した支援者全員・保護者全員が動作法(とけあい技法)をマスターして、各場面で関わるようにしていただきました。動作法(とけあい動作法)は不思議なもので、動作法を行う側にも、心に余裕ができ、安心感を強めることができるのです。

写真は6月に行ったキャンプ参加を希望するさまざまな支援者に行った動作法(とけあい技法)の練習風景です。

 

このキャンプでは、保護者、支援者に原則として動作法(とけあい技法)を伝授したのですが、この目的は、保護者や支援者自身も、安心感を強く持ち、緊張感を緩めることも狙っていたのです。関わる者の緊張、気負いを緩め、その構えをマスターすることも、動作法習得では目指してたのです。

初日の最後のプログラムでは、心理スタッフのメンバーが心理教育を行いました。この中で動作法(とけあい技法)を行ったのです。心理スタッフも、キャンパーたちも、保護者さんたちも加わって、動作法を施行しました。

この効果については、早川先生が、別に報告していますが、動作法(とけあい技法)が、さまざまな感情や感覚を安心の方向に変化させることは、これまでに様々な研究で確かめられています。

 

以下の写真は親子キャンプでの動作法(とけあい技法)の様子です。支援者が母親に、母親が子どもに動作法を行っています。(親御さん、お子さんには目に線を入れさせていただきました)

みどりの東北元気キャンプ2012について(6)不登校キャンプが震災ストレスの心のケアキャンプに効果的なのはなぜか?

◆キャンプの成果と子どもたちの評価

 

「みどりの東北元気キャンプ」は、昨年度は「睡眠の問題」の改善に非常に効果的でした。睡眠の問題は、「地震、津波で恐い思いをした」お子さんや「放射線で日常的に外遊びの制限などを受けている」などの体験のあるお子さんに多く見られたことも分かりました。つまり、このキャンプは、災害体験と密接に関連していたのが、当時は「睡眠の問題」で、その睡眠の問題に有効だったのです。

 

キャンプの効果の検証は、なかなか難しいところもあります。このキャンプの目的は問題の未然防止です。その効果検証とは、その後に問題が起きてこないことです。○○があることを証明することや、○○の増減の証明はできるのですが、○○が生じて来ないことの証明には、同じ地域の子どもたちに比べて、症状が少ないまま推移したことを証明しなければなりません。これは現実問題として、とても難しいところがあります。

 

ですが、少なくとも、このキャンプが子どもたちにとって素晴らしいものであったのは確かなようです。そう確信したのは、昨年度に参加をしたお子さんたちからの予約で、キャンプ参加予約が一挙に埋まっていったことからも分かりました。キャンプ場での再会を誓い合ったお子さんたちが何人もいることを、今年のキャンプ場で、子どもたちから聞きました。

 

昨年度のリピーターの多さに、昨年度と同じ計画の「冒険キャンプ」では、「抽選になる」ことを伝えられたと聞きました。「当選して、嬉しくて泣いたんです」との話も、お子さんから聞きました。

◆不登校問題を維持させる過去の辛かった体験の記憶◆

 

このように昨年度のキャンプは大成功だったのですが、改めて、不登校の子ども用のキャンプの手法が、今回の災害による子どものストレス反応の軽減に応用可能であった理由を明らかにしておきたいと思います。少し難しくなりますが、お許しください。

 

不登校キャンプの場合、対象となった適応指導教室に通う子どもたちは、登校ができないものの、適応教室内で人間関係が形成できる程度の対人不安の回復がある 子どもたちです。その一方で、学校場面を回避する問題が残されています。このお子さんたちは、不登校期間から言えば、年単位に及ぶ欠席を示していた場合が 少なくありませんでした。

 

この場合、本人が不登校の契機となるような辛い体験をした以前の学校環境と、現在の学校環境とは異なっているはずです。それでも、お子さんが学校環境を回避するのは、学校場面での辛い体験に関わる記憶を思い出し、そこで起きる不安や恐怖が沸き起こることによるものだと思います。

 

その症状が過去の辛い体験から日常生活に影響を及ぼすようなPTSD(心的外傷後ストレス障がい)を生じていたか否かは別にして、過去の辛さの想起が学校場 面への不安をひき起し、不登校行動の維持に繋がる場合が少なくないと考えています。実際、近年、私は、EMDRやRDIなどのトラウマの解決専用の手法を 用いて、子どもを再登校を実現させている事例は少なくありません。

◆不登校キャンプで24名中20名が学校に戻るようになった最大の理由◆

 

不登校キャンプが、子どもの再登校に好影響を及ぼしたのは、キャンプにより培われた自己概念の改善であったと、私は考えています。そして、これは、今回のキャンプでも重視されていたことでもありました。

 

仲間や支援者に支えられる中で、人に関わるときの緊張や不安を軽くさせてもらい、その上で、自分が伸びていく活動を行います。その結果、「自分にはできることがある」との自己効力感や、「自分は自分で良い」という自己肯定感を向上させることができるのです。ここに、最大の意義があると思っています。

 

これが、再登校することへの不安や恐怖の克服と、学習の遅れなどの不登校によって生じた不利益にも挑戦するとの意志を強めたのでしょう。

その結果として、学校復帰の成果へと繋がったと考えられるのです。

 

「みどりの東北元気キャンプ」で踏襲された方法を支える哲学として、過去の辛かった体験によって損なわれた自己効力感や自己肯定感を修復する上で、意味ある体験を与えることがあります。このことを大事にしたのです。過去に学校で辛い思いをした子どもが学校に戻るときに必要なものがこれなのです。そして、災害で辛い思いをした子どもが、それを乗り越えるときに必要なことも、これだったのだと思います。

 

ですので、地震、津波の被災体験や放射線被害体験を味わった子どもが多く示した「睡眠の問題」のストレス反応の改善に有効に働いたと考えているのです。